グラフィック

「フォントを理解するには」悩んだこと

#コンセプト#ストーリー#ポイントを伝える#美しいデザイン

フォントへの理解

 

  
デザインを考える過程で、常に頭を抱えさせられるのがフォント選びです。

 
それもそのはず、フォントと向き合ってきた時間が足りていないのだから当然です。長い間、自問自答を繰り返しながら絵を描き続け訓練してきた時間を経てきて、構図や色についてなら多少なりとも自分なりに答えを見出すことが出来るように思うのですが、フォントとなると違います。ある程度、本やネットで集めてきた知識だけではどうしても感覚的に理解出来ないのです。

 
では、どうすればフォントに対する感覚が身につくのかと考えて、行き当たったのがカリグラフィーです。カリグラフィーとは、西洋や中東などにおける、文字を美しく見せるための手法。(ウィキペディア参照https://ja.wikipedia.org/wiki/カリグラフィー)とありますが、一般的にはペンとインクを使って美しい文字を書くことであります。

 
カリグラフィーを学ぶ事で、すでにデザインされた書体をパソコンで打ち込むだけでは得られない感覚を得られるのではないかと考えたのです。

  

カリグラフィーを学ぶ

 

 
さて、カリグラフィー初心者の私ですが、どうやらカリグラフィーにも決まった書体というものがあるらしく、イタリック体、ゴシック体、カッパープレート体など、基本的な書体がいくつかあります。

 
このゴシック体というのは、デザインで良く耳にするゴシック体とは違うようで、中世後期12世紀〜15世紀に最も栄えた書体で、ドイツなどでよく目にするゴテゴテした文字であります。ブラックレターという名前の方がこの書体をよく理解出来るように思われますが、中世ヨーロッパでは紙が大変貴重なものであったということは、なんとなくお分かりかもしれません。

 
たまたま手にとった『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』(スティーヴン・グリーンブラット著、河野純治訳、柏書房)(これはカリグラフィーのために買った本ではないのですが、偶然にも当時の枢機卿の秘書として、バツグンの写本能力のあったポッジョ・ブラッチョリーニが主人公の本でした。) によると、修道院では修行の一環として読書が行われていたそうで、その本というのはこの時代一般的に普及するものではなかったものである以上、商業的な本作り工房は潰れ、したがって修道士たちは自らボロボロになった本を複製したり羊皮紙を製造、再利用しなければならなかったのです。

 
その際に古代の文章が書き込まれた羊皮紙から文字の書いてある表面をナイフで削り取ってその上に写本するのだそうです。そうまでして紙を捻出しなければならないくらいには貴重で、つまりは貴重な一枚の紙にできるだけ文字を詰め込もうとギュウギュウに書き詰めるために考案された書体だということです。名前の通り紙面が真っ黒になってしまうのも納得ですね。

 

ブラックレターという書体

 
 

 
 
このブラックレター(ゴシック体)の前身となるのがカロリング体、アンシャル体と、こちらはゴシックよりもゆったりと幅をとって書かれます。さらに遡ってローマンキャピタル体ともなると、有名なものではローマにあるトラヤヌス帝の記念碑やパンテオン等古代の遺跡に刻まれているような大文字書体のみのものになります。

 
カリグラフィーとは離れますが、ルーン文字について調べていた時ふと思った事があります。ルーン文字には曲線がないのです!文字について詳しい方には当然なのかもしれませんが、紙でない硬いものに刻む場合には直線が良かったのかもしれないと思った次第であります。楔形文字などもぜひ書き方を検索してみて欲しいのですが、粘土板に刻むからこその書体なのだと感心させられました。

 
ゴシック体に戻りますが、この次に考案されたのがポッジョ・ブラッチョリーニとも交遊のあったニッコロ・ニッコリの書体が元になったイタリック体となります。(https://ja.wikipedia.org/wiki/ニッコロ・ニッコリ)この書体は教皇庁の書体として採用されたもので、カリグラフィーを学ぶにあたっても基本となる書体となるようです。上部が右に傾いており、ストロークの端が次の文字に続くような丸みを帯びています。

 

イタリック体を学ぶ

 

 
現代では、文字を「斜体」にする時「I」というボタンを押したらできると思いますが、こちらで斜体にしたものはイタリックとは呼べず、はじめから斜めにしても美しく見えるように作られたフォントがイタリック体と呼べるそうです。

 
カリグラフィーの代表とされるこのイタリック体。イタリック体を学ぶ練習本も多く出版されており、まさに入門といえる書体ですが、見る分には単純そうに見えて書いてみると全くもって難しいものであります。書いてみて実感しましたが、西洋のものとはいえ日本の書道に通じるものがあります。文字は芸術なのです。

 
文字で表現される芸術といえばイスラームの建築には美しく文字が刻まれていますよね。アラビア語を知らないためにただただ美しい装飾としてしか認識できませんが、読めたら読めたでまた違った感覚がするのでしょう。

 

文字は芸術

 
もう一つ有名な書体、カッパープレート体。これこそ憧れの美しい書体と言えるのではないでしょうか。イタリック体を基盤に17世紀、産業革命で忙しくなったイギリスで発達した早く書けて美しい書体。結婚式の招待状などにさらっと書いてありますよね。

 

 
ネットに多く上がっているカッパープレート体の作品を見ましても、ちょっとやそっとでは素人が到達できる領域にない芸術作品であります。カリグラフィー文字に添えられる飾りのラインのことをフローリッシュと言うそうですが、書き手のオリジナリティ溢れるこの部分が面白いポイント。

 
同じ単語でも様々なアレンジがあり、これらを見比べるのが楽しいところです。美しさ、バランスにも関係してくると思うので、まさにフォントの美を感覚的に理解していないとできない部分なのではないかと思います。この領域に達するまで、もしくは達しようと努力するだけでも、フォントを感覚的に理解するのに役立つ一つの方法になると思いませんか?

 
少し調べただけでも奥が深そうで、カリグラフィーの一端もまだまだ分かりませんが、出来上がったフォントを打ち込むだけではなく、たまには自分の手で紙に書いてみるのも良いのかもしれません。

 

アド広研 デザイン部